夜中のひと匙

難病と双極性障害Ⅰ型のアラサー。死にかけてICUに収容されるも、しぶとく生き残る。30代で母を亡くし独りになる。拍手を暫定復活しました。お返事できるとは限りません、ご了承ください。

電気を発明してくれてありがとう。独りっきりの地震体験記1

前提条件:母は治療のため入院中であり、わたしは自宅に一人でした。我が家は戸建てではなく5階程度の高さにあります。

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地震が起きた瞬間、わたしはベッドで眠っていました。

いつ目が覚めたのかも分からないまま、ものすごい勢いで揺さぶられ、地震だと理解はしたものの、ベッドにうつ伏せになって丸まっていることしかできませんでした。この揺れを例えるなら、公園に馬とかの形をしたバネで固定されている、またがると前後にぐいぐい揺れる遊具がありますよね、あれに寝転んで乗っている感じです。

窓は開いていましたが、物が落ちる音とか、何かが割れる音とか、他の住人の声は聞こえませんでした。

揺れが収まったので、スマホだけを持って恐る恐る居間へ向かいました。この時はまだ電気が通じていたので、廊下の照明をつけることができました。洗面所の前やトイレの前を通りましたが、廊下には何も異常はないように思いました。

……なぜか、居間から明かりが漏れていました。

消し忘れたはずはないのに、居間にはちゃんと明かりがついていて、もちろん誰もいないのです。このあたりの解釈はお任せするとして、明るかったおかげでまず、廊下との境に置いてあった背の高い姿見が倒れているのが見えました。

地震には何度も遭っていますが、ここまではっきりとものが倒れるのは初めてだったのと、まだわたしのなかでは「あー怖かったーテレビ見よ」程度の認識だったので、目を上げて、オーブントースターが床に転がって黒い煤が散乱し、冷蔵庫は前にのめり出ているし、天井から吊るしていたカフェカーテンは棒ごと落ちて、左を見れば扇風機が転がり、テレビ台も前に突っ込むように出ていて、その隣に神社の御札やお神酒をあげていたのですが、三枚の御札は落ち、母の病気平癒のお祓いで頂いてきた木のお札も落ち、一緒に頂いた瓶のお神酒も、割れてはいませんでしたが床に転がっていました。(たまたまなのでしょうが、その時一緒に厄払いを受けたわたしが頂いた御札と瓶のお神酒はそのまま残っていました)

観賞用の小さな鉢も2つ、それぞれの場所で落ちて土をばらまいています。

わたしは急いでテレビをつけました。もう「あー怖かった」どころの話ではないと悟ったので、すぐに寝間着を着替えて靴下を履きました。帽子もかぶりました。服用している薬がたくさんあるので、壁に貼ってあるお薬カレンダーを剥がして丸め、紙袋に入っている残りの薬も全部ビニール袋に入れて、リュックに突っ込みました。買い置きしていた2リットル×6本のミネラルウォーターの箱をばりばり破って、1本をリュックに入れ、大きめのタオルハンカチを入れ、腕時計をしました。

ニュースは信じられない震度を伝えていて、わたしはこのあたりですでに息が荒くなり、手足は冷たくガクガクし、身体から力が抜けて倒れそうでした。

とにかく逃げる準備はできたし、様子を見ていよう、とテレビの前に座った時でした。

バン、とすべての光が消えました。

テレビの白い光も、蛍光灯も、何もかもが消えて、一瞬、理解できませんでした。

そしてそれが地震による停電なのだと気づいた時、外からの街灯の明かりもなく、住宅の共用廊下の蛍光灯もない、本当の暗闇になった時に、無意識にスマホを見ました。充電は30%台でした。

普段は寝る前にかならず充電するのですが、昨夜は稲光がすごくて、フラッシュのようにバシバシと空が光るので、落雷してショートしたら困ると思って充電していなかったのです。

ガクガクしながら懐中電灯をとりに走りました。床には鉢植えだの姿見だのが倒れているので、スマホの画面で照らしながら進みました。

大きな懐中電灯が廊下にあるのを見つけて、スイッチを入れた時の心強さ。それから自分の部屋に戻ってモバイルバッテリー、音楽再生に使っている昔のiPhone、ポケットWi-Fi、電池式のラジオレコーダーを持って居間に戻りました。この間もひっきりなしにスマホから地震速報のアラームが鳴ります。「あと5秒後に震度3がきます」とか言われて、わたしはどうしたらいいんですか?逃げる?机の下に潜る?誰も教えてくれない!

ガクガクしながら帽子を押さえて、家中で一番、物のないところでうずくまります。うわんうわんと揺れる。

一時、静寂。

わたしの持っているモバイルバッテリーはアンカーの大容量で、スマホなら4回フル充電できるタイプです。

とにかくスマホ!わたしはケーブルを挿してみました。

……本来は4つ光るランプが、1つしか光らない。

これも充電を怠っていたようです。

でもネットだけなら、iPhoneとポケットWi-Fiを繋げばできる。幸いにiPhoneの充電は70%くらい残っている。

ポケットWi-Fi、起動。

起動、しない。

充電が切れてる……

ふっと顔を上げると暗闇。

懐中電灯の細い白い光だけ。

外に逃げても、どこに行っても、この世界は真っ暗で、この暗さから逃げることはできないんだと気づいた時、わたしは頭がおかしくなりそうでした。

でも人間ってちゃんと機能するというか、わたしはメンタルが弱いわりに危機的状況には強いという、わけのわからないタイプなんですけど、とにかく怪我をしないように裾の長いジーパン、半袖の上には長袖パーカーを着て、リュックを手元に起き、軍手をポケットに入れて、家の中で一番安全と思われる場所に座椅子を置いて、足元に懐中電灯を置き、窓を開けて外の声を聞きながら、ラジオを聞いていました。

スマホは全然充電されません。もちろん立ち上がってたアプリは全て消して、画面の照明は最低にし、節電モード。それでもなかなか充電の%が上がらない。

今、一番怖いのはこのラジオが消えること。充電池だし、これは数日前にチャージした記憶があるから大丈夫だと思うけど、ここから聴こえるアナウンサーの声が消えて、この暗闇に取り残されたら、取り残されたらどうしよう……

ラジオの音量を最低限に絞って、座椅子に深く腰掛けて、目をつむってみる。

数分は持ちこたえるけど、また恐怖に襲われます。その繰り返し。

倒壊したらどうしよう。

戸建てじゃないから、いざという時に窓から逃げることができない。というより、倒壊したら死ぬ。

でも外に出たら安全なんだろうか。

こんな真っ暗で?

地割れに落ちたりしないの?

今、何をするのが正しいの?

わたしの判断は間違ってない?

多分、わたしと同じように被災された方でも、家族が一緒だったら全然違うんじゃないかと思います。

誰かいれば相談できるし、喋ることができますよね。喋ってれば結構メンタル的には大丈夫なんじゃないかと思うんです。

と、思っていると固定電話が鳴りました。

そういえば停電中であってもつながるんですよね。ありがとうインフラ。もちろんディスプレイは消えますけども。

出ると入院中の母からでした。

結局ケータイを持つのを嫌がったので、院内の公衆電話からかけてきたようです。

「おかあさあんなんたらもかんたらも倒れて停電して真っ暗でめちゃくちゃでどうたら」

と言うと、母はそこまで予想していなかったようで、唖然としているのが伝わってきましたが、

「とにかく許可が取れ次第帰るわ」

と言って切りました。

この時点でまだ四時くらいだったと思います。

夜明けは5時過ぎですかね。

あと1時間真っ暗闇の刑。いくら本人が帰るったって、大混乱ですから、そんな三十分や1時間で帰ってくるわけがないですし、日の出まで、がんばれ!\(^o^)/ わたし!

頑張れるわけがなかったので、それでも三十分くらいこらえましたが、固定電話から電話しました。

相手は東京の父親のケータイです。

十回くらい呼び出している。

なんていうか、ああ、東京じゃみんな眠ってるんだよなあとしみじみ思いました。

父親は出てくれまして、日の出までなんたらかんたらと話しました。 何を話したかは覚えてない。ごめん。

入れ替わりのように母親から電話が来て、「『帰ってもいいけど、道中の保証はできませんよ』っていうのよ」とのこと。

続く(更新に時間かかると思います)